人権リスクとは、企業活動によって個人や集団の人権が侵害されるリスクです。
例えば、サプライチェーン上で労働させられる子ども、資源開発で居住地を追いやられた地域住民、ハラスメントに苦しむ従業員など、「人」が悪影響を受けてしまうリスクであると言えます。
人権リスクの例
企業が関与する可能性のある人権リスクは多岐にわたります。
その中から、各業界に共通して顕著な例を挙げて解説します。
雇用関係
人権リスクは、当然のことながら企業と従業員との直接的な雇用関係の中にも潜んでいます。
人権リスク | 解説 |
---|---|
差別 |
企業が、雇用・昇進・訓練などの仕事に関連した恩恵から、就労態度やパフォーマンスなどの正当な要件とは関係なく、特定の人びとを組織的に排除すること。 具体的な例として、男性と女性で異なる賃金表や昇級基準を利用している、求職者がトランスジェンダーであることを理由に不採用にした、障害者や外国人労働者に適切な職業訓練の機会を提供していない、などが挙げられます。 |
ハラスメント |
身体的・心理的・性的・または経済的に危害を与えることを目的とした行動と慣行、またはその脅威。 日本では、「パワハラ」、「マタハラ」、「モラハラ」など、次々にさまざまな類型が生じています。 ビジネスと人権の文脈においては、これらの類型にとらわれる必要はありません。ハラスメントとは、人間の尊厳を傷つけることであると理解することが網羅的な予防につながります。 |
プライバシー侵害 |
従業員の私生活・家族・住居・通信への違法な干渉。 人権侵害となるかどうかは、基本的にはその干渉が法律で認められているかどうかによります。ただし、ガバナンスが脆弱な国において、国内法そのものが国際基準を満たしていない場合もあり、注意が必要です。 また、リモートワーク中の従業員の監視ツール、cookieの入手、AI搭載カメラ等、急速なテクノロジーの発展に法規制が追い付かない分野において、その違法性はグレーゾーンにあります。最新の動向の把握と慎重な判断が求められます。 |
サプライチェーン
多くのサプライヤーを抱えるグローバル企業にとって、サプライチェーン上で適切なガバナンスを維持することには大きな困難を伴います。
従って、ビジネスと人権の文脈でよく語られる人権侵害の多くはサプライチェーンで発生しており、特に低賃金労働者に関する人権リスクが多い傾向にあります。
人権リスク | 解説 |
---|---|
児童労働 |
子どもの義務教育を妨げる労働や、健康や発達にとって有害な労働。特に農業、鉱山業、衣料産業、履物工業で顕著です。 社会保障が整っていない国や地域において、貧困家庭は子どもを働きに出す以外の選択肢がなく、特にグローバル・サウスで児童労働が多い傾向にあります。 |
搾取 |
危険を伴い、不衛生で不健康な労働条件で就労し、低賃金で長時間働かされること。 搾取の被害者は嫌がらせや虐待にさらされることがある他、逃亡防止のために施設のドアが施錠されていたり、休憩をとることが許されず、トイレにさえ行けないこともあります。 |
強制労働 |
脅迫によって強要された、自らの自由意思に基づかない労働。 いわゆる奴隷の状態にあると言えます。多額の借金を抱え強制的に労働させられている労働者、性的搾取のために人身売買された人は「現代奴隷」と呼ばれています。 |
地域社会
事業活動は、自社の従業員やサプライチェーン上の労働者だけでなく、事業を展開する地域社会にも悪影響を及ぼす可能性があります。
人権リスク | 解説 |
---|---|
土地の奪取 |
企業がその利用や搾取によって利益を得ることを目的に土地を支配すること。 例えば、パーム油やバイオ燃料といった広大な土地を必要とする農業や、ダムや風力発電施設といった大規模な開発プロジェクト、銅や亜鉛などの採掘産業に関わる企業による土地の収奪が挙げられます。 |
強制立ち退き |
土地の収奪の結果、土地を追われ移住を余儀なくされること。 また、その土地に留まったとしても、重要な水路から遮断されたり、家畜の放牧地を大幅に失ったりと、土地利用から排除されることでて悪影響を受けることがあります。 |
弾圧 |
企業が不法侵入者や迷惑行為などから施設や事業を守る際、治安部隊によって過剰に武力が行使されること。例えば、ハラスメント、身体的虐待、拷問、強かん、殺害などが挙げられます。 紛争が起きやすく制度が脆弱な国や、採掘産業において特に人権リスクが高い傾向にあります。 |
環境
これまで環境問題と人権は切り分けて考えられてきましたが、気候変動によって人権侵害がもたらされているという分析が進むにつれ、ビジネスと人権においても環境問題が議論の俎上に載せられるようになりました。
人権リスク | 解説 |
---|---|
汚染 | 企業活動による環境汚染は、清潔な水を得る権利、食料を得る権利、健康を享受する権利、生きる権利など、多くの人権に影響を及ぼします。 |
森林破壊 | 森林破壊は、林業、農業、狩猟などに従事する人々の雇用、収入、生産の機会を奪い、生活を脅かします。 |
さらに詳しくビジネスと人権を学ぶ
日本社会では、ビジネスと人権の具体的なノウハウが蓄積されておらず、多くの企業を悩ませています。
当社の専門家はこれまで、国際人権NGOにて数多くの人権プロジェクトに従事し、また、外資コンサルファームにてグローバル企業の人権尊重経営を支援し、ビジネスと人権に関する専門性を蓄積してきました。
企業のサステナビリティ担当役員や人権の担当者向けに、専門家によるレクチャー、人権研修やワークショップなどのサービスを提供しています。予算に応じて柔軟に対応できます。
ご関心のある方は、下記ページより資料請求できます。