人権方針を実効性あるものにする|部門横断型チームの設置と運営のポイント

本稿では、人権方針を策定するための7つの実践ステップのステップ2を解説しています。

ビジネスと人権には部門横断の体制が不可欠

人権デューデリジェンスやESG対応が企業に求められる中、人権方針の策定は「やるべきこと」として認識されつつあります。しかし、実務の現場では、ビジネスと人権に関する「部門間の温度差」や「理解不足」に悩む担当者も少なくありません。

例えば、サステナビリティ推進部門や人事部門は、人権尊重を企業の責任として強く認識している一方で、営業部門では、「売上やコスト削減が優先」「人権は自分たちの業務とは関係ない」といった認識があり、温度差が生じてしまうこともあるでしょう。また、「人権=労働問題(長時間労働やハラスメント)」と狭く捉えられてしまったり、人権方針の策定がもたらす実務への影響を懸念されたりと、関係部門の理解を得ることが難しいこともあります。

こうした視点のずれを解消するには、「部門横断型チーム」の活用が重要になります。

部門横断型チームとは?

部門横断型チーム(cross-functional team)とは、企業内の複数部門から担当者が集まり、人権方針の策定・実行を推進するための組織体です。

このようなチームの設置は、サステナビリティ推進部門側とビジネス部門側との視点のずれの解消に役立ちます。例えば、非財務価値と財務価値を統合した目標の設定(人権の取り組みを通じて企業のブランド価値を向上させるなど)や、国際基準を満たしつつ現場実務に適用できる他社のプラクティスの検討などの役割が期待されます。

また、「委員会」「部会」「ワーキンググループ」「タスクチーム」など形式はさまざまですが、定期的に部門間でのミーティングを実施することで、互いの関心事項を共有し優先事項をすり合わせることができます。サステナビリティ、法務、人事、調達、セキュリティなど、方針に関わる多様な視点を持つ部門が連携することで、社内の理解と共通認識を醸成し、実効性のある方針策定が可能になるのです。

チームの構成と運営のポイント

部門横断型チームには、以下のような部門が参加することを推奨します。

各部門の主な役割を示しています。

サステナビリティ部門は、方針策定の主導と社内調整を担当します。法務部門は、国内外の人権関連法規の確認と助言を行います。人事部門は、労働環境や差別防止に関する知見を提供します。調達部門は、サプライチェーンにおける人権リスク管理を担当します。IT・セキュリティ部門は、情報管理やプライバシー対応を行います。CSR・広報・IR部門は、社内外への発信と啓発支援を担当します。経営企画部門は、全社戦略との整合性確保と経営層との橋渡しを行います。

上記はあくまで一例であり、企業規模や業種に応じて、ESGやリスク管理に関する部門などが加わることもあるでしょう。

チームは、方針の草案作成の他に、社内外への周知、教育、モニタリング、定期的な見直しなどを担います。人権方針を策定した後も、全社の人権施策の推進を担っていくことになるため、中長期的な視野を持ってチームを組織することが望ましいです。

運営ポイント①:責任の所在不明を防ぐ

部門横断型チームは、部門間の協力を促進するメリットがある一方で、責任やリーダーシップが曖昧になってしまうリスクもあります。予防策として、以下の措置が考えられます。

  • タスクと責任分担の明確化(各タスクの担当者、期限、成果物をワークプランとして整理しておく)
  • リーダー部門の設定(サステナビリティ推進部門など、チームを主導する部門を明確にし、調整・推進役を担う)
  • 経営層の関与の制度化(チームの設置、方針、活動内容などを定期的に報告し承認を得る体制を整える)

運営ポイント②:立ち上げは小さくはじめる

社内での人権への理解が浸透していない段階で、最初から完璧なチームを立ち上げることは現実的ではありません。まずは関心の高い部門から小規模に始め、徐々に拡大していくアプローチが有効です。

運営ポイント③:社内発信も重視する

チームへの社内理解や巻き込みを促進するためには、活動内容の可視化が欠かせません。イントラネットや社内報で社内へ情報を発信するとともに、経営トップからのメッセージとして発信することも重要です。

明文化のポイント

人権方針には、人権を尊重する責任を果たすための推進体制を明記することが一般的です。部門横断型チームの名称や構成部門を明記することで、社内外に対して透明性を担保することができます。

また、ステップ1で解説したとおり、人権を尊重する責任を果たしていくために経営層の関与は不可欠です。部門横断型チームと経営層との関係についても、方針に明記するとよいでしょう。

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