企業の人権方針は経営層の関与から始まる|サステナビリティ担当者が押さえるべき4つのポイント

本稿は、「人権方針策定ガイド|サステナビリティ推進担当者のための7つの実践ステップを解説」の続編です。


前回は、人権方針策定の全体像と7つのステップを概観しました。今回はその中でも最初のステップである「経営層の関与の確保」に焦点を当て、なぜそれが重要なのか、どのように実現するのかを、実務担当者の視点から詳しく解説します。

経営層の関与は人権施策の成否を大きく左右する

企業が人権方針を策定する際、最初に取り組むべきことは「経営層の関与を確保すること」です。これは単なる形式的な承認ではなく、方針の実効性と信頼性を担保するための重要なステップです。

国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」でも、企業の最上級レベルで人権方針を承認することが求められています。

人権を尊重する責任を定着させるための基礎として、企業は、以下の要件を備える方針の声明を通して、その責任を果たすというコミットメントを明らかにすべきである。
企業の最上級レベルで承認されている。
社内及び/または社外から関連する専門的助言を得ている。
社員、取引先、及び企業の事業、製品またはサービスに直接関わる他の関係者に対して企業が持つ人権についての期待を明記している。
一般に公開されており、全ての社員、取引先、他の関係者にむけて社内外にわたり知らされている。
企業全体にこれを定着させるために必要な事業方針及び手続のなかに反映されている。

では、なぜそれほどまでに経営層の関与が重要なのでしょうか?

経営層の関与が不可欠な4つの理由

このような要件が設けられている主な理由として、次の4つが考えられます。

1. 全社的な責任であることを明確にするため

人権を尊重する責任は、一部の部門が取り組むだけでは果たすとはできません。最上級レベルで人権方針を承認することで、すべての部門・従業員に適用されることが明確になります。

2. 経営層のコミットメントを示すため

経営陣が方針を承認することで、社内外に対して「人権を重視する姿勢」が本気であることを示すことができます。これは、ステークホルダー(投資家、顧客、地域社会など)との信頼関係を築くうえでも重要です。

3. 実効性のある実施体制を確保するため

人権方針を「絵に描いた餅」にしないためには、予算・人材・時間などのリソースが必要です。サステナビリティ推進部門などの担当部門が社内の関係者を巻き込む際、経営判断が後ろ盾となります。

4. 企業文化への定着を促すため

経営層が人権方針を承認・支持することで、社内の文化として人権尊重がトップダウンで根づきやすくなり、従業員の意識や行動にも変化が生まれます。

どうすれば経営層の関与を確保できるのか?

人権方針の策定や改定は、通常、経営層によってトップダウンで行われます。そのため、多くの場合は関与を得ることは難しいことではありません。ただし、企業によってはボトムアップで議論がはじまる場合もあります。

そのような場合には、以下のような「ビジネスケース」を作成し活用することが効果的です。

人権方針を持つことで、企業にどのような価値やメリットがあるか
業界や社会がどのような人権課題に影響を与える可能性があるか
方針がないまま進めた場合に起こりうるリスクやコスト
同業他社の取り組み(ベンチマーク)
方針が企業の社会的責任やサステナビリティ戦略の中でどのような位置づけにあるか

このような情報を整理したビジネスケースは、経営層の理解と支持を得るための説得材料として活用できます。また、社内の関係部門を巻き込む際にも、繰り返し使える説明資料として役立ちます。

明文化のポイント:経営層の承認を方針にどう記載するか

人権方針に経営層の承認を明記する方法として、以下の2つのパターンが一般的です。一つ目は、人権方針の末尾に、経営トップが関与する会議体によって承認された旨を明記するパターン。二つ目は、経営トップの名義で公表するパターンです。

まとめ:人権方針策定の第一歩は「経営層の関与」

人権方針は、企業の社会的責任や持続可能性の根幹を支えるものです。そのスタート地点である「経営層の関与の確保」は、方針の実効性を左右する重要な鍵となります。

ぜひ、方針策定の初期段階で経営層との対話を始め、理解と支持を得るための準備を進めてみてください。

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