人権方針策定ガイド|サステナビリティ推進担当者のための7つの実践ステップを解説

企業が人権の尊重に取り組む際、はじめに着手することになるのが人権方針の策定です。

本稿では、企業のサステナビリティ推進部などの実務担当者に向けて、人権方針を策定する際の基本的な進め方を、7つのステップに分けて解説します。すでに人権方針を策定済であっても、この7つのステップは、方針改定の必要性を判断するときや、改定版を作成するときにも役に立つ内容となっています。

また、人権方針に記載する文言の具体例も紹介しています。方針の文言をドラフトする際のヒントになれば幸いです。

今回の執筆にあたり、国連による以下の2つの国際文章を参照しました。本稿の内容は、これらの文書に関する当社の解釈と、当社が企業支援の現場で得た経験を基に作成しています。

国連ビジネスと人権に関する指導原則
2011年に国連人権理事会で全会一致で承認された、企業活動における人権尊重のための国際的な枠組み

A Guide for Busines: How to Develop a Human Rights Policy
企業が人権方針を策定・実施するために、国連グローバル・コンパクトと国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によって発行されたガイドライン

7つのステップ全体像

ここでは、人権方針策定の全体像を把握するため、7つの実践ステップの概要を解説しています。

#1 経営層の関与の確保

人権方針の策定は、企業の経営層の関与が不可欠です。企業のトップが方針策定を主導し、責任者を任命して必要なリソースを確保しておくことが望ましいです。

策定の初期段階では、社内の理解が浸透していないことが想定されます。なぜ人権方針が必要なのか、どのような価値があるのかを経営陣に説明し、社内の理解と支持を得ることが重要です。これにより、方針が単なる文書にとどまらず、実効性のある企業文化の一部として根付く土台が築かれます。

#2 部門横断型チームの設置

人権方針は、企業全体に関わるものであるため、サステナビリティ、人事、法務、調達、セキュリティなどの複数部門からなるチームを編成します。このチームは、社内の知見を集約し、方針の草案作成、社内外への周知、教育、報告体制の整備などを担うことになります。チームは中長期的に方針の見直しや改善にも関与し、企業全体での一貫した人権尊重の実践を支えていく役割が期待されます。

#3 社内外の専門知見の活用

既存の方針や体制との整合性をとるためにも、法務、CSR、人事といった部門に関連する知識や経験を持つ人材がいるかを確認しておきます。

社内に十分な知見がない場合や、事業が複雑で多国籍にまたがる場合は、外部の専門家の支援を受けることが推奨されます。

#4 社内方針のギャップ分析

既存の企業理念や行動規範が、どの人権課題をカバーしているかを洗い出し、未対応の領域を特定します。たとえば、差別禁止や労働安全衛生に関する方針があっても、「人権」という言葉が使われていない場合は、明示的な表現に改めることが望ましいです。国際的に認められたすべての人権を対象とすることが求められ、業種や地域によって重点を置くべき権利が異なる点にも留意します。

#5 人権リスクのマッピング

企業の事業活動がどのような人権に影響を与える可能性があるかを把握するため、初期段階で簡易的なリスクマッピングを行います。業界特有の課題や、事業展開地域の人権状況、過去の事例などを参考に、特に顕著な(salient)人権課題を特定します。この作業は、後の人権デュー・ディリジェンスにも役立ちます。

#6 ステークホルダーとの対話

労働組合、NGO、地域住民、投資家など、影響を受ける可能性のある内外のステークホルダーと対話し、期待や懸念を把握します。この対話は、方針の実効性を高めるだけでなく、信頼関係の構築にもつながります。一部の企業は、方針の草案を共有してフィードバックを得ることで、より現実的で受け入れられやすい内容に仕上げています。

#7 方針の制定と社内外への周知

人権尊重へのコミットメント(約束を果たす・責任を持つこと)を明文化し公表します。全従業員に周知するとともに、必要に応じて研修などを実施します。また、取引先や業務委託先などにも方針を伝えて、人権尊重の責任を果たすために期待される行動を促します。特にリスクの高い事業領域では、積極的な情報共有と対話が求められます。

人権方針が満たすべき5つの要件

国連ビジネスと人権に関する指導原則は、方針が備えるべき要件として、次の5つを明示しています。

1. 企業のトップレベルで承認されていること
2. 社内外から専門的助言を得ていること
3. 従業員や取引先などの関係先へ期待を明記していること
4. 一般に公開され、社内外に周知されていること
5. 各種方針や手続きに反映されていること

本稿が解説する7つのステップは、これら5つの要件を満たすことを念頭に置いた解説となっています。

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