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紛争鉱物リスクにどう備える?企業×NGOで学ぶ責任ある鉱物調達|イベントレポート

不確実性が高まるグローバル・サプライチェーンでは、紛争鉱物1をはじめとする問題への対応が、事業の持続可能性を大きく左右します。サプライチェーン管理を担う調達部門においては、「透明性の担保」と「リスク管理」が強く求められます。

しかし、複雑なグローバル・サプライチェーンの最上流——特に紛争の影響を受ける地域の実態を、企業が自ら適切に把握し、継続的に対応していくことは容易ではありません。サプライヤーに質問票を送付して回収するだけでは実効性の高い対応にならない一方で、現地訪問や独自調査にはリソースの制約があります。こうしたジレンマは、多くの調達担当者が実感しているところではないでしょうか。

本記事では、2025年12月10日に開催した企業向けセミナー「責任ある鉱物調達の新潮流——NGOとの連携の可能性」をもとに、調達部門の実務に直結するポイントを整理してお届けします。自社の方針の見直しやサプライヤーとの対話、社内説明の材料としてご活用ください。

  • 企業の社会的責任の範囲は「コンゴ民主共和国の3TG」だけでなく、あらゆる鉱物・地域・企業へと拡大している
  • 法令順守に加え、OECDガイダンスに準拠したデューディリジェンス体制を構築し、PDCAを回すことが重要
  • サプライチェーン最上流における人権リスクの「見えにくさ」は、NGOとの連携によって補完できる可能性がある

セミナー概要:企業・NGO・専門家が読み解く「責任ある鉱物調達」のいま

本セミナーのテーマは「責任ある鉱物調達の新潮流——NGOとの連携の可能性」。プライム上場企業を中心に、鉱物調達に関わる約30人の実務担当者に向けて、認定NPO法人テラ・ルネッサンスと合同会社継青堂が大阪で共催しました。

登壇者

石川みち子 日東電工株式会社 法務コンプライアンス本部

小川真吾 認定NPO法人テラ・ルネッサンス理事・海外事業部長

樋口利紀 合同会社継青堂 代表執行役

佐藤暁子 ことのは総合法律事務所 弁護士

企業事例に学ぶ:紛争鉱物対応から「責任ある鉱物調達」へ

日東電工(Nittoグループ)は、ESGを経営の中心に置くという決意のもと、事業活動を通じた「社会課題の解決と経済価値の創造の両立」をサステナビリティ基本方針に掲げています。 マテリアリティには「人権の支持と尊重」や「サプライチェーンの強靭化」も含まれており、責任ある鉱物調達は単なる調達要件ではなく、企業価値と直結するテーマとして位置づけられていることがうかがえます。

石川氏 Nittoグループでは、1918年の創業以来培ってきた基幹技術をベースに、数十種類にも及ぶ周辺技術を研究・開発してきました。それらの技術を組み合わせて、現在はエレクトロニクス業界や、自動車、住宅、インフラ、環境および医療関連などの領域で、幅広い製品・サービスを展開しています。 Nittoグループでは鉱物そのものを直接購入していなくても、多品種の製品を扱っているため、サプライチェーンの上流に位置する素材や原材料の段階で鉱物と関わることになります。

3TG対応だけでは不十分に——ステークホルダーからの要求の変化

近年、日本の市場においても「3TG2への対応だけでは不十分」との指摘が強まっています。特に電子部品を多く扱う企業では、RBA3の行動規範やOECDガイダンス4に準拠した対応が求められ、コバルトも重要な対象鉱物として認識されるようになっています。

石川氏 特にコバルトは、RBAの行動規範でも対象鉱物に追加されているように、採掘現場での児童労働などの人権リスクが国際的に問題視されています。Nittoグループでは、こうした外部環境の変化を受け、これまでの「紛争鉱物の取り扱いに関するNittoグループ方針」を「Nittoグループ責任ある鉱物調達方針」に改定しました。

対象地域は従来のコンゴ民主共和国とその周辺地域に加えて、紛争地域および高リスク地域にまで広げるとともに、対象鉱物としてコバルトも明記しました。 さらに、OECDガイダンスに沿ったプロセスの体制構築と運用についても方針に組み込み、サプライヤーの皆さまには、第三者認証を受けた精錬所からの鉱物使用をお願いしています。

日東電工株式会社 石川氏
  • 自社の「紛争鉱物」に関する調達方針は、「責任ある鉱物調達」方針にアップデートし、対象地域・対象鉱物・対象サプライヤーの範囲を見直す
  • OECDガイダンスに沿ったプロセス(責任部署、情報収集、リスク評価・対応、監査、開示)をセットで設計する
  • サプライヤーには、第三者認証精錬所の利用など、具体的な要件を提示する

NGOに学ぶ:鉱物サプライチェーンの最上流では何が起きているのか

「忘れられた紛争」と鉱物がつなぐ資金の流れ

アフリカ大陸の中心に位置し、「アフリカの心臓」とも呼ばれるコンゴ民主共和国。鉱物資源が豊富な国で、中でもコバルトの埋蔵量は世界の51.4%、鉱石生産量は71.4%と圧倒的なシェアを誇っています。5

しかし、現地で紛争被害者支援に取り組む認定NPO法人テラ・ルネッサンスが指摘するように、その東部では武装グループや軍による人権侵害が深刻です。

小川氏 1996年以降の紛争では、600~700万人の方が亡くなったと言われています。戦後最大の犠牲者を出している紛争であるにもかかわらず、国際社会の関心は十分とは言えないことから、現地の方々はよく「忘れられた紛争」と表現しています。

また、度重なる紛争の中で、8歳の子どもまでもが紛争に駆り出される「子ども兵」の問題や、女性に対する性暴力の問題も非常に深刻です。私たちテラ・ルネッサンスは、帰還した元子ども兵や、性暴力を受けた女性といった紛争被害者を支援する活動を現地で行っています。 戦闘と人権侵害を繰り返す武装グループの資金源となっているのが、スズ、タンタル、タングステン、金といった紛争鉱物です。手掘り鉱山で採掘されるタンタルなどの鉱物のおよそ半分が、武装グループの資金源になっているとも言われています。

規制の進展と、なお残る構造的な課題

こうした課題を背景に、米国ではドッド・フランク法に基づく情報開示ルールが導入され、企業に対して3TGの使用状況の調査・開示が求められるようになりました。並行して、OECDは紛争影響・高リスク地域からの鉱物調達で人権侵害や紛争への加担を避けるためのガイダンスを公表し、EUでも紛争影響・高リスク地域に由来する3TGについて、域内輸入企業にデューディリジェンスを義務づける規則が整備されました。

この結果、上流の取引を「紛争フリー」として担保するための認証やトレーサビリティの仕組みが広がりましたが、その一方で認証タグの不正売買といった抜け道も生まれ、問題は構造的に根深く残っています。

小川氏 2010年のドッド・フランク法以降、武装グループの2千人以上の兵士が投降し、コンゴ東部の3TG鉱山から8割の武装グループが撤退したと言われています。現地では欧米の企業による紛争鉱物の取引もなくなりました。 しかし、その一方で、2010年以降は中国など欧米以外の企業による取引が増加したり、体積が小さく持ち運びやすい金が密輸されたりと、武装グループへの資金流入が断ち切れていない現状があります。

認定NPO法人テラ・ルネッサンス 小川氏

このように、国際的な規制や企業の取り組みによる一定の成果が生まれたものの、紛争鉱物をめぐる問題は、認証制度の抜け道や新たなプレーヤーの登場によって、形を変えながら続いています。その結果、企業に求められる責任の範囲も、「特定の地域・特定の鉱物」から、より広いサプライチェーン全体へと拡大してきました。

ここからは、鉱物調達をめぐる企業の社会的責任がどのように変化してきたのかを整理します。

鉱物調達をめぐる企業の社会的責任の変遷:調達実務はどう変わるのか

3TG対応の「その先」へ——対象はすべての鉱物・地域・企業に拡大

2010年のドッド・フランク法を契機に、企業は3TGの原産地調査や年次報告が求められ、サプライチェーンを精錬所レベルまで遡って把握する必要が生じました。さらに2017年のEU紛争鉱物規則により、対象地域は紛争影響・高リスク地域へと拡大し、EU域内の鉱物輸入企業に対する義務も強化されています。

現在では、投資家や取引先などのステークホルダーからの要請を受け、対象地域は世界全体へ、対象鉱物は3TGに限らずすべての鉱物へ、対象企業も特定業種に限らずあらゆる企業へと広がっているのが実情です。

調達部門としても、自社が3TGを直接扱っているかどうかにかかわらず、「鉱物を含む製品・部材を調達しているか」という観点での対応が求められつつあります。

RMI報告スキームの多様化と調達部門へのインパクト

こうした責任範囲の拡大は、RMI6の報告テンプレートにも表れています。従来のCMRT(3TG)に加え、EMRT(コバルト等の6鉱物)、AMRT(企業が指定する任意の10鉱物)など、報告スキームが多様化してきました。調達部門としては、どのテンプレートをどのサプライヤーに求めるのか、基準を整理して有効活用することが重要になります。

責任ある鉱物調達のための5つのステップ(OECDガイダンス)

責任ある鉱物調達は、一度調査して終わりではなく、継続的な改善プロセスとして捉える必要があります。OECDガイダンスでは、企業が取るべき5つのステップが提示されています。7

強固な社内体制の構築
  • 鉱物デューデリジェンスに関する方針の策定
  • マネジメント体制の構築
  • サプライヤーやビジネスパートナーとの連携
  • 鉱物サプライチェーンに対する内部統制と透明性の確立
  • データ収集し、グリーバンスメカニズムの設置
サプライチェーンのリスク特定・評価
  • サプライチェーンを調査し、強化されたデューデリジェンスが必要なレッドフラッグ(危険信号)の特定
  • レッドフラッグが立った領域(取引先等)について、追加情報を収集して深掘りし、事実関係のマッピング
  • リスクの優先順位付け
リスク対策
  • リスク評価の結果を経営層へ報告
  • 調達・サプライチェーン管理における内部統制と監督の組織体制を改善
  • 最も深刻で有害な影響に関与するサプライヤーに限定して取引停止
  • リスクの予防・軽減に向けた影響力の行使
  • 自社及びビジネスパートナーのキャパシティビルディング
第三者監査
  • コントロールポイント(3TGの精錬所・製錬所など)におけるデューデリジェンスの実施状況の監査
  • 監査人による所見の取りまとめ、既存プロセスに対する改善提案
情報開示とコミュニケーション
  • デューデリジェンスに関する方針及び実施状況の公表
  • ステークホルダー(取引先、投資家、NGOなど)からの質問、懸念、提案への対応

なぜ企業の社会的責任はここまで拡大したのか

企業のサプライチェーン上で起こる人権侵害の多くは、被害者の人権擁護に取り組むNGOなど市民社会のアクターによって、初めて可視化されました。

樋口 最近の象徴的な例は、2016年にアムネスティ・インターナショナルが発表したコバルトの児童労働に関する報告書 “This is What We Die for: Human Rights Abuses in the Democratic Republic of the Congo Power the Global Trade in Cobalt” 8です。コンゴ民主共和国のコバルト鉱山において、数万人規模の子どもを含む労働者が危険な手掘り作業に従事し、そのコバルトがスマートフォンやEV電池など大手企業の製品に使われている実態が明らかになりました。

合同会社継青堂 樋口

マイカや銅、ニッケル、天然黒鉛、リチウムなど「紛争鉱物以外」の資源でも、児童労働・強制労働・劣悪な労働環境・先住民や地元住民の権利侵害などの問題が次々に明らかになっています。被害者支援に取り組むNGOの活動を起点に、これまで有耶無耶にされていた企業の社会的責任が露呈し、投資家や取引先によるエンゲージメントも強まっています。

企業とNGO連携の可能性:見えないリスクをどう補うか

サプライチェーン全体で人権を尊重する責任を果たすようステークホルダーから求められている企業と、そのサプライチェーンの最上流の現地で活動するNGO。両者はどのように連携し得るのでしょうか。

2010年代、ビジネスと人権におけるNGOの代表的なアプローチは、人権侵害に加担した企業を名指しで非難する「Name and Shame」でした。しかし、近年はESGやサステナビリティの機運の高まりもあり、企業とNGOが協働しながら改善に取り組む新たな関係性も生まれつつあります。

企業とNGOの連携の3つの形態

まとめ:調達部門に求められる一歩と、継続的なアップデート

これまで、責任ある鉱物調達への対応は、コンゴ民主共和国とその周辺地域で採掘される3TGを中心としたテーマとして認識されてきました。しかし現在では、対象となる地域・鉱物・企業のすべての範囲が拡大し、「すべての鉱物」が対象になり得る時代を迎えています。

外部環境が変化する中で、企業は単なる法令順守にとどまらず、OECDガイダンスに沿ったデューディリジェンス体制を整え、方針策定からリスク特定、対応、監査、開示までを継続的に改善していくことが重要です。同時に、サプライチェーン最上流にある人権リスクは企業から「見えにくい」という構造的な課題を抱えるため、現地の知見を持つNGOとの連携を通じて情報や視点を補完し、実効性と説明責任を高めていくアプローチにも大きな可能性があります。

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  1. 武力紛争や人権侵害、深刻な社会不安が起きている地域で採掘される鉱物資源。タンタル、スズ、タングステン、金の4鉱物を指します。こうした鉱物は、採掘や取引で得られる収益が武装勢力の資金源になってしまうことがあり、その結果として暴力の連鎖、強制労働、汚職が温存・拡大してしまう問題があります。 ↩︎
  2. タンタル(Tantalum)、スズ(Tin)、タングステン(Tungsten)、金(Gold)の4鉱物の略称。 ↩︎
  3. Responsible Business Alliance(責任ある企業同盟)の略称。グローバル・サプライチェーンにおける労働・環境・倫理(人権含む)の基準づくりと改善を進めるための企業連合。 ↩︎
  4. OECD紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス。外務省ホームページより仮訳のガイドラインを参照できます。https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csr/pdfs/oecd_ddg_jp.pdf ↩︎
  5. JOGMEC金属資源情報より。https://mric.jogmec.go.jp/country/?c=cd(最終アクセス:2026年3月4日) ↩︎
  6. Responsible Minerals Initiative(責任ある鉱物イニシアチブ)の略称。企業が鉱物サプライチェーンで責任ある調達(人権・紛争リスク等への対応)を進めるためのツールや基準を提供する業界イニシアチブです。前述のRBAの枠組みの一つとして運営されています。 ↩︎
  7. OECD ガイダンス及びウェブサイトを参照 https://www.duediligenceguidance.org/ ↩︎
  8. https://www.amnesty.org/en/documents/afr62/3183/2016/en/ ↩︎
  9. https://www.morinaga.co.jp/1choco-1smile/ ↩︎

 

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