信頼される人権方針を作る方法|社外の人権の専門知識を活用するには

本稿では、人権方針を策定するための7つの実践ステップのステップ3を解説しています。

企業が人権尊重の責任を果たすためには、単に社内の取り組みだけでなく、社外の専門知識を積極的に取り入れることが不可欠です。特にサステナビリティ推進部門にとって、人権方針の策定は企業の価値観と行動を明確に示す重要な文章であり、その質と信頼性を高めるためには、外部の視点が大きな力となります。

なぜ社外の専門知識が重要なのか?

社内外から専門的助言を得ることは、人権方針が満たすべき5つの要件のひとつです。このことは、国連ビジネスと人権に関する指導原則16に明記されています。

人権方針が満たすべき5つの要件は、次の5つです。
1 経営トップの承認を得る
2 社内外の専門家の意見を取り入れる
3 ステークホルダーへの期待を明記する
4 一般に公開し周知する
5 事業方針や手続きに反映する

人権課題は、労働、環境、プライバシー、差別、サプライチェーンなど多岐にわたります。また、時代の変化に伴い人権課題も変化します。企業がこれらすべてにおいて十分な知見を持つことは現実的ではありません。そこで、以下のような理由から、社外の専門知識の活用が推奨されます。

人権リスクの見落としを防ぐ

企業の内側から見ているだけでは把握しきれない人権リスクが存在します。特に、事業をグローバルに展開している場合、現場で起こっている人権課題やステークホルダーの懸念は、社内の視点だけでは見えにくいでしょう。

たとえば、外国人労働者の待遇など、企業が「問題ない」と認識していたとしても、NGOなどの外部団体からの指摘によって、人権問題として顕在化することがあります。こうした外部の声を取り入れることで、企業は「知らなかった」では済まされない人権リスクを事前に把握し、対応策を講じることが可能になります。

国際基準との整合性を確保する

人権方針は、「ビジネスと人権に関する指導原則」をはじめとする国際的な枠組みに沿って策定されることが求められます。

こうした国際基準の解釈や適用に精通している社外の法律専門家や人権専門家は、企業の方針が「国際的に通用する内容」になっているかをチェックし、必要に応じて修正を提案してくれます。

これにより、企業はステークホルダーからの信頼を得ると同時に、将来的な法的リスクやレピュテーションリスクといったビジネスへのダメージを回避することができます。

社内外の信頼を得る

人権方針は、企業の姿勢を示ための「社会との約束」であり、社内外のステークホルダーからいかに信頼されるかがその成否を左右します。社外の専門家の意見を取り入れることで、方針の内容に客観性と透明性が加わり、「企業の独りよがりではない」ことを示すことができます。

外部の専門家の意見を取り入れて方針を策定したことを明記すれば、従業員や取引先の納得感や実行力の高まりも期待することができます。

どの専門家から助言を得るべきか?

人権の専門家も多種多様ですが、一般的に次のようなカテゴリに分類することができます。

人権方針の策定は企業の人権尊重の出発点となるので、特定の人権テーマよりも、ビジネスと人権全般についてより包括的な視点(国連ビジネスと人権に関する指導原則や国際人権法といった国際的な枠組みに関する専門性)を持ち合わせた専門家から助言を得ることが望ましいでしょう。

また、人権方針を策定した後は、人権リスクの調査と対応、モニタリングや改善といったプロセスが続きます。専門家との連携は「一過性」ではなく「継続的」な関係が理想です。そのため、人権方針の運用や企業実務にも明るい専門家の協力を得られるかどうかが重要です。

どのように専門家の助言を活用するのか?

専門家はそれぞれ異なる強みを持っています。専門家を選定する際のヒントとなるよう、活用方法について以下のとおり整理しました。

アカデミア

国際人権法、ビジネスと人権、企業倫理、企業の社会的責任などの理論的枠組みに精通した大学教授からは、社会的信頼性の高い第三者の視点を得ることができます。国際基準(ビジネスと人権に関する指導原則など)の背景や解釈に関する助言、社内研修やワークショップでの講義、方針文言の妥当性チェックやレビューを依頼するとよいでしょう。

法律家

企業の人権を尊重する責任は、国内法の遵守だけでは果たすことができません。ビジネスと人権に関する指導原則をはじめとする国際的な枠組みに精通している弁護士であれば、人権方針と国際基準との整合性を確保するために適切な助言を得ることができます。国内外の人権関連法規との整合性のチェックや方針文言のレビューの他、人権方針の契約条項への反映に関する助言を依頼するとよいでしょう。

NGO・NPO

人権擁護に取り組むNGO・NPOは、企業活動によって人権を侵害される人たちの代弁者です。企業が見落としがちな人権課題にスポットライトを当てる重要な役割を果たしています。助言を依頼する際は、意見交換会による対話型レビュー、方針草案へのフィードバックといったアプローチが現実的です。

専門コンサルタント

ビジネスと人権に関する知見と実績のある専門コンサルタントであれば、ギャップ分析、ベンチマーク調査の他、方針を実務に落とし込むための体制構築への支援まで期待することできます。

国際機関

国連、ILO、OECDといった国際機関から助言を得て人権方針を策定することができれば、グローバルな信頼性と整合性を確保することができ、また、海外のステークホルダーへの説得力も増します。その国際機関が管轄しているガイドラインや条約の適用への助言、国際的なベストプラクティスの紹介、国際基準との整合性レビュー、意見交換会などを依頼するとよいでしょう。

人権方針に記載する方法

方針本文に以下のような一文を加えることで、国際基準への準拠を示すことができます。

本方針は、社内の関係部門に加え、外部の人権専門家、NGO、法律専門家からの助言を得て策定されました。

また、コーポレートサイトや統合報告書などでより詳細な説明をすることで、方針本文を簡潔に保ちつつ、策定プロセスの正当性やステークホルダーとの対話の姿勢と企業の本気度を示すことができるでしょう。

当社の人権方針は、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、社内の関係部門(サステナビリティ推進、人事、調達、法務)に加え、以下の外部の有識者からの助言を得て策定されました。

○○大学○○教授

△△弁護士

NGO「○○」との意見交換会

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