今回ご支援したのは、プライム市場上場企業であり関西を代表するグループ会社のホールディングス人事部。近年、国際社会において「ビジネスと人権」の概念が急速に浸透し、日本企業にもその実践が強く求められるようになりました。企業活動が人権に与える影響は、自社内にとどまらず、サプライチェーン全体に及ぶことから、取引先を含めた広範な人権尊重の取り組みが不可欠となっています。
こうした潮流の中、同社は2023年に人権方針を制定し、2024年度よりグループ全体での人権デュー・ディリジェンス(以下、人権DD)に本格的に着手しました。継青堂は、同グループの人事部内に設置された人権DD事務局と連携し、グループ各社の人事・相談窓口担当者を対象とした研修を企画・実施しました。
理解から実践へ、そして組織文化の変革へ
本研修は、単なる知識の伝達にとどまらず、参加者が自社の課題を自ら発見し、行動に移すための「気づき」と「対話」を重視した設計となっています。グループ40社から約70名の担当者を対象に2日間にわたり開催され、継青堂の代表が講師として登壇しました。
研修は以下のような構成で進行しました。
目的意識の共有
研修の冒頭では、グループ事務局より人権方針の制定背景と、グループ全体で人権DDに取り組む意義が共有されました。単なる法令遵守ではなく、「社会的責任を果たす企業文化の醸成」が目的であることが明確にされ、参加者の意識を揃える重要な導入となりました。
人権DDの基礎理解
このセッションでは、国連指導原則やOECDガイダンスなどの国際基準をベースに、人権DDの定義・目的・プロセスを体系的に解説しました。
特に重視されたのは、「人権リスクとは何か」という概念の明確化です。企業にとってのリスクではなく、労働者・消費者・地域住民など“人”への影響であることを強調し、経営リスクとの関係性も丁寧に紐解きました。
人権リスク調査結果の共有
グループ各社に対して事前に実施されたアンケートやヒアリング調査の結果をもとに、グループ全体の傾向や課題を共有しました。
このセッションでは、各社の回答傾向を通じて「自社はどこに位置しているのか」「他社と比べて何が足りないのか」を客観的に把握する機会が提供され、社内での対話のきっかけとなるよう設計しました。
業界別リスクの可視化と構造的課題の共有
グループが展開する複数の事業領域(運輸業やサービス業など)における人権リスクを、国連環境計画のツールキットを活用して分析。
各業界に共通する構造的課題(例:外国人労働者の処遇、ジェンダー不平等、地域住民への影響など)を具体的に示し、「自社の事業特性に応じたリスクの見立て方」を学ぶセッションを提供しました。
人権リスクの特定と評価方法の解説
このセッションでは、人権DDの初期ステップである「リスクの特定と優先順位付け」について、実務的な手法を説明しました。
人権リスクを評価するためのヒートマップの作成、国際報告書の机上調査、取引先への質問票・ヒアリング・現地訪問・社会的監査など、実際に企業が取り組む際の選択肢とその使い分けを具体的に解説しました。
質疑応答とディスカッション
最後のセッションでは、参加者からの質問に対し、講師が事例を交えて回答。
「自社の規模ではどこまでやるべきか」「グループ会社間で温度差がある場合の進め方」など、実務担当者が直面する悩みに寄り添った対話が展開され、研修の学びを自社に持ち帰るためのヒントが多数提供されました。
研修の成果
研修後のアンケートでは、参加者のうち92.8%が「参考になった」と回答。特に「専門用語をかみ砕いた説明」「他社事例の紹介」「業界別の具体的なリスク提示」が高く評価されました。
また、グループ全体での人権リスクの共通理解が進み、今後の取り組みに向けた方向性が明確になったことで、社内での議論が活性化。人権DDの実践に向けた第一歩を踏み出す契機となりました。